工房閑話

 

 

トランプ大統領

   

 メディアを含む観測筋の予測を見事に裏切ったトランプ勝利の報は、英国のEU離脱をはるかに上回る衝撃となって地球を駆け巡った。
不吉な予感については今年の3月の小欄でも触れたが、かつてはアメリカの経済を支えたRust Beltの悲鳴は想像を超えていた。また伝統的な保守の精神を重んじる人々の強固な価値観が、通奏低音のように一貫して響いてもいた。彼らにとっては、トランプの暴言も単なる暴言ではなく、自分達を代弁してくれる心強いリーダーの証しと映ったことだろう。差別発言ごときで色褪せることはないのである。

 

 メディアの報道も勝因の分析が一段落し、今後の政治行動に焦点が移っている。それを占うためにも、ここでは彼の目指す大統領像を考察してみよう。子供時代は手の付けられない悪ガキで乱暴者、性格は傲慢、不動産業で成功した実業家と云った人物像が報じられている。しかし、次のことから彼が何をしようとしているのかが見えてくるように思える。昨年ABCのインタービューにトランプはこう語ったそうだ。「97年の映画 ‟Air Force One” でハリソン・フォードが演じた大統領は尊敬に値する。」ご存知のとおり、勇敢な大統領は、最終シーンでハイジャックの首謀者を大統領専用機から蹴落とし、テロリストからアメリカを守るのである。この賞賛に対して、当のハリソン・フォードも ‟It’s a movie, Donald. It was a movie.” (ありゃ映画だよ、ドナルド! 映画だったんだ。)とあの苦笑いで答えているが、トランプにとって、これはキャンペーン中の‟Make America Great Again” の具体的なイメージの一つなのだろう。また、結果を出すことを何よりも優先するのが彼のスタイルであり、そのために前言を翻すことに躊躇はないだろう。何よりも心配なのは、ようやくまとまりかけた「COP21」である。ここは是非前言を翻してもらいたいのだが、新大統領もその支持者も、温暖化には全く興味がなさそうである。

 

 移民法関連についても大きく変わるかも知れない。特に不法移民に対しては支持者を納得させる程度の措置が取られるだろう。Eビザに代表される日本人の就労ビザについては、アメリカ経済への貢献という観点から、さほど心配する必要はないだろう。とは言え、実態に基づいたきめ細かいビザ゙業務の執行管理ができなくなる恐れがある。なにしろ行政府の幹部が根こそぎ入れ替わるのである。暫くは注意深く見ていく必要がありそうだ。

 

2016年11月15日

           

 

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