工房閑話
この道しかない
ご存知のとおり我が宰相の語録の一つだが、山頭火の句
この道しかない春の雪ふる
を思い出す方もおられるかも知れない。同じ言葉でも政治家の口から出ると、その響きは全く異なるものになってしまう。
ヨーロッパでは、ベルギーの原発が物議を醸しているらしい。
不具合が頻発していること。特に、1974~1975に稼働した2基の原発の原子炉容器に多数のひび割れが発見されたこと。先のテロリストが原発襲撃を画策していたこと等々により、国民の不安が募っている。
にも拘わらず、政府は2015年に廃炉にすることになっていたこの古い原発を、2025年まで稼働させることとしたそうだ。
ベルギーの電力のおよそ半分が原発で賄われており、代替エネルギー計画は実現の目途がたたず、当局は「他の選択肢は無い(この道しかない)」としている。どうやら「この道しかない」は我が国固有の政策ではないようである。
近隣諸国も穏やかではない。なにしろ、その内の一基を抱えるティアンジュ原発などは、ドイツ国境からわずか60キロしか離れていない。ドイツは当該原発の運転停止・徹底検証等を求めているものの、ベルギーは国際的な安全基準を満たしていると反発しているとのこと。つまり想定外の事態が起こらない限り安全ということだろう。東日本震災の後、いち早く2022年までの全原発の廃炉を決定しているドイツは、何ともやり切れない思いだろう。60キロとは、東海道線で云うと東京から平塚の距離である。奥多摩より近いと云われた湯河原は未だ40キロも先である。
アメリカのビザに於いても「この道しかない」は禁物である。どう考えてもビザの要件を満たすことができないケースは決して珍しくはない。他に広く門を開いている国は少なくないのである。