工房閑話

 

 

 

ライジングサン

 

 自民党総裁選の候補者から「奈良公園で中国人が鹿に蹴りを入れていた。これは何とかしなければ!」と云う趣旨の発言があった。

 

 学生時代、奈良に住んでいた。東大寺の近くに下宿していた折に、朝早く起きると、鹿が庭で遊んでいるのを見かけることがあったが、江戸時代、鹿は神の使いであり、これを殺傷すると死罪に処せられることもあったそうだ。中国人のみならず、日本人にも神の使いを蔑ろにする不心得者が居たらしい。必然、奈良の人々は、家の前に鹿の死体の無いことを確認するために早起きになったらしい。万が一、死体が在ろうものなら、速やかに隣家へ移して置いたそうだ。このことは、確か、米朝の落語を聴いて知った。

 

 また、候補者からは「日本はライジングサンの国ですから」というような言葉が発せられた。607年の遣隋使が持参した、時の皇帝煬帝宛ての「日出るところの天子、書を日没するところの天子に・・・」に始まる国書のことを思い出す。大国中国と対等な関係を築こうという聖徳太子の外交的野心が感じられる。一方この度の「ライジングサン」には、選民思想の香りが濃く漂う。かつて昭和初期の日本を侵略戦争に向かわせ、近くはその被害者と目されていたイスラエルをも、非人間的な蛮行に駆りたてているそれである。ナチスの殺戮からユダヤ難民を救うために、異例のビザ発給を敢行した杉原千畝はどう見ているのだろうか。ちなみに、この「日出るところ」は中学校の授業で習い、小野妹子の名前と共に記憶している。


 

 

                            2025年9月30日

 

工房閑話に戻る