工房閑話

 

 

 

留学受難

 

 メキシコ国境を守るボーダー・パトロール・エージェントであるジョンは、今日も不法入国者を収監し国境の向こう側に送還してきた。1日の労働を終え、ひと息入れようとバーに立ち寄ったジョンに、「旦那、何にしましょう?」とバーテンダーが愛想よく声を掛けてくる。さっき送り返したばかりの男だった。

 

 かつては、このような笑い話が語られ、この問題も、どこか未だほのぼのとした余裕のようなものがあったが、第一次トランプ政権時に、そのようなゆとりは影を潜めてしまった。メキシコからの不法入国を阻止するための「国境の壁の建設」に世論が湧いたことは記憶に新しいが、同じ時期に1,000人の中国人(大学院生、研究者)のビザが取り消されている事はあまり知られていない。

 

 第二次政権に於いても5月27日に留学ビザの面接予約停止が発表され、関係者を混乱させている。ハーバード大学の「反ユダヤ主義」問題に端を発したように見えたが、5月28日の国務長官の「中国人留学生のビザを積極的に取り消す」発言から、本丸は対中政策に移ったように見える。実行されれば27万人が審査の対象となる。

 

 代表的な留学ビザであるFビザは、9月の入学を目指して、この時期に申請が集中する。昨年の6月~8月に日本人に発給されたFビザは約44,000件(国務省資料)。今年もこれに近い数の申請者が、不安な思いで受付再開を待ち望んでいることだろう。

 

 勝手な想像ではあるが、申請者のSocial Mediaによる発信等をチェックして、政治的な思想・信条審査を厳格化する体制を整え、早期に面接受付が再開されるのではないだろうか。「入国を許可するのは自分たち」と云う理屈は分かるが、手法はあまりにも粗雑で貴重な国益を棄損しかねない。これも勝手につくったイメージではあるが、メキシコ人バーテンダーの人懐っこい顔が浮かんでくる

 

 

                            2025年5月30日

 

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