工房閑話
上方演芸会
上方演芸会は1949年放送開始のNHKラジオの長寿番組である。
上方漫才を中心に放送時間は30分。徳川将軍の膝元である江戸とは一線を画す、上方の町人文化の伝統にも培われ、はんなりした大阪言葉で語るお笑いは、なかなか味わい深いものだった。しかし、ここ数年は、たまに思い出したように、チャンネルを合わせることがあるが、すぐにスイッチを切ってしまう。もっともこの流れは大阪に留まらない。恐らく今の時代は、云う所の名人・上手を輩出しにくい社会になっているのだろう。
一方、日々の出来事は、その穴を埋めて余りがある。お笑いに話術は必須だが、それに負けず意外性も重要。この点に於いて、もうすぐ降壇する現宰相の能力は秀逸と云える。圧巻は自衛隊の敵地攻撃能力保持と防衛費増額(GNPの2%)を、一瞬でしてのけたこと。当の自衛隊・防衛省の驚きと困惑が究極の意外性を物語っている。あの安倍一強政権でさえ決めきれなかった大技を、閣議決定のみで、しれっと強行してしまった。甘く見られた国民・野党のみならず泉下の先輩も驚き、歴史的偉業を弱小政権にさらわれた悔しさに、臍を噛んでいるに違いない。
記憶に新しいところでは、裏金事件時の火の玉発言もある。太平洋戦争末期の一億総玉砕を彷彿とさせる言葉に、いよいよ党の悪弊に大なたが振るわれるのかと、楽しみに経緯を見守ったが、大山は一向に鳴動せず鼠が数匹炙り出されて、火の玉はコソコソと何処かに行ってしまった。凡人なら自身の不甲斐なさに「世間に合わせる顔が無い」と俯く場面だが、泰然とした姿には天才を感じる。
次期総裁の有力候補の一人の難解な語録も独走的で楽しませてくれるが、最近唐突に、真剣な面持ちで憲法改正を唱え始めている。その虚を突くパフォーマンスに思わず「おいおい、今それかい?」と云う言葉が洩れてしまう。上方演芸会に引導が渡される日は、そう遠くない。
2024年8月29日