工房閑話
あるEビザの更新
弊所の顧客には例外的に有名企業もあるが、そのほとんどは中小・個人企業で、ビザの審査はどうしても厳しくなる。申請準備はより慎重にならざるを得ない。できる限りリスクを排除する準備を心がけているが、あらためて振り返ってみると、事務的なペーパーワークで済むというケースは思い出せない。おかげで、候補者の履歴書に目をとおす時に私の関心は、悲しいことにこの人物が有能な人材か否かについては素通りし、ひたすらビザが取れるかどうかと云う一点に向かうのが常である。
昨年の暮れに、S氏からEビザの更新時のトラブル対応についての相談があった。S氏は典型的な個人起業家で不動産リース・管理会社を経営しているが、ビザの更新時期を迎え、面接に臨んだところ追加書類提出を求められたと云うことであった。面接時に提出した書類の控えを見ると、5年前の更新時に弊所で作成した書類を参考に準備した模様だが、体裁は割り引いてもらえるとしても、提出した書類と追加書類(証拠書類)が矛盾することになると云う危うさがあった。なかでも最大の問題は、2名いるとしている従業員の存在を立証するフォーム「I-9」を1名分しか提出できない事であった。
幸いなことに、指示されたドキュメントを可能な限り提出し二次面接に臨んだところ、無事に更新が許可された。最大の懸案であった要員数の乖離については、正直に事情を説明した結果、悪意のない事務的なミスと判断された。申請準備の段階で相談を受けていれば、スムースに更新できていた可能性があったのだがと思う一方、自力で手続きを行うという意気込みと行動力には敬意を表したい。「起業家たる者、こうでなければ」と感心させられた。図らずも、「自身が主体的に申請準備を行い、審査官の質問に自身の責任で明快に答える」というという理想の形になったが、このことが領事の好感を引き寄せ、この結果に繋がったと思う。連日報道される裏金不祥事に関する、自民党代議士の意味不明で醜悪な弁明に辟易している身にとっては、何とも爽やかである。
2024年2月28日