工房閑話
兵庫県尼崎市
尼崎市は兵庫県にありながら、経済的には大阪市と一体になって発展してきた。なにしろ大阪・尼崎間はJRの各駅停車で10分とかからない。大阪、神戸に関わりのある身にとっても、「大阪だったかなあ、兵庫だったかなあ?」と迷うことがある。実際、人口45万を抱えながら同じ県内の西宮市、芦屋市と比べても格段に知名度が低い。皮肉なことに、その尼崎が市民の個人情報を記録したUSB紛失事件で、世間の耳目を集めることになった。しかも「泥酔し路上で眠っている間にUSB入りのカバンを紛失する」と云うブラックジョークまで付いている。
「日本人がITに弱い」と言われて久しい。欧米はもとより、中国の背中さえ見えなくなる始末である。なにしろ我が国に於いては社会・経済・政治等全ての活動がデジタルとは対極のベクトルで動いている。IT機器を利用するか否かの問題を云っているのではなく、文化・思想の問題で、ここに対処しない限り先には進まないだろう。あまりにも初歩的な尼崎市の問題もこの角度で見るべきで、言わずもがなだが、お上に預ける情報もすべて洩れると覚悟した方がいい。しかも原発事故の如く「想定外」で片づけられるだろう。
アメリカの就労ビザ申請に際して、最も重要な事項は具体的な仕事の内容で、英語ではJob Descriptionだが、これをいざ日本語に置き換えるとなると、どうしても適当な言葉が思い浮かばない。そこで辞書を当たると「職務明細書」、「仕事内容」等、誠に座りの悪い言葉が並んでいる。つまり、わが国ではそういう概念そのものが育っていないことが分かる。領事との面接で、「あなたの仕事は?」と問われ「課長です」と答えた申請者のことが語り継がれているが、「課長として何をなすのか」を答えない限り正答ではない。相当の規模と知名度を誇る会社に於いても、Job Descriptionと呼べるものがない例は決して珍しくなく、前途は多難なようだ。
2022年6月26日