工房閑話

 

 

自己防衛 3

 

 もう何年も前にイスラエルに行った時のことである。エルサレムでショーを見に出かけた。客席は世界各国からの観光客で埋まっていた。司会者が「イタリアから来た人!」などとやると、イタリア人が陣取っている一画が大いに盛り上がる。アメリカは言うまでもなく、フランスもスペインも南米のどこかの国も気勢を上げるが、情けないのは我が同胞で、何とも乗りが悪い。肩身の狭い思いをしていると、心強いお仲間がいた。ドイツ(当時は西ドイツ)人の一団である。ビールが入れば別かも知れないが、我々同様実にシャイだった。ひょっとすると、この持ち味が先の大戦時の同盟締結に、一役買ったのかも知れないという妄想に捉われる。

 

しかしコロナ対策に於いては、お仲間ではなかったようだ。報道によると今や一大感染地のヨーロッパの中にあって、ドイツだけは見事にコントロールしている。徹底した検査で感染者を割り出し、未感染者との接触を防いでおり、その後の治療も含め、通常の医療を妨げないシステムが構築されている。致死率1%未満という数字はその成果を物語っている。

 

 我が国はと云うと、もう少し地に足のついた対策で我々を安心させて欲しい。例えば、検査一つ取っても、政府は1日あたり8,000件処理できるとしているが、有り様は蛇口が絞られ1,000件程度に留まっており、あまりの少なさに海外からも批判を受ける始末である。「ドクターの要望があれば、検査するよう厚労省にお願いしている。」とは首相の意味不明な説明である。また、海外からの帰国者には、ほとんど不可能な行動を要求している。タクシーを含む公共交通機関を使わずに移動し、2週間外出を控えるようにとの要請だが、果たして何人が実行できるのだろうか。これらはほんの一例だが、何としても感染を食い止めるという政府の確固たる意思が見えてこない。欧米では戦争と云っているのだ・・・。

 

 東京都の外出自粛要請が出た後、近くのスーパーマーケットは、食料品を買い求める人で溢れかえっていた。コロナをもらっては元も子もないので、もう少し冷静な対応ができないものかと、あきれながら早々に退散を決め込んだが、その後の感染者数の増加と政府の対応を見ていると、あれはあながち的外れな行動とは言い切れなくなってきた。何しろ我が国の食糧自給率は40%を切っているのである。

 

 このままでは、イタリア、フランス、スペインあるいはアメリカの方に進んでしまいそうな嫌な予感がするが、ここは何とかあのドイツについて行きたい。


 

                             2020年4月1日

 

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