工房閑話
ゴラン高原
1976年3月某日、ガリラヤ湖に春が訪れていた。船上の敬虔なクリスチャンの讃美歌が、キリストの慈愛に包まれているような心地良い空気を醸し出している。イエス・キリストは、レバノン、シリアとの国境に近い、イスラエルの北部に位置するこの湖周辺を中心に布教を行ったとされるが、如何にもキリストゆかりの地にふさわしい。山上の垂訓「こころの貧しき人たちは幸いである・・・・・」も、この地でイエスが弟子たちに語ったと伝えられる。
このガリラヤ湖の東側及び北側に広がるのがゴラン高原である。シリア領であったこの地は、 第三次中東戦争(1967年)に勝利したイスラエルが実効支配し、シリア軍と対峙している。1976年当時も時折遠くに響く砲声に現実を思い知らされた。国連を含む国際社会はイスラエルの主権を認めていない。イスラエル寄りの立場を取るアメリカ政府も、イスラエルに自重を促してきており、辛うじて危ういバランスが保たれてきた。ところが、トランプ大統領はこれまでの方針を覆し、突然「全面的に主権を認める時機」とツイートしている。来年の再選に向けて支持層を固める狙いがあると分析されているが、そうだとすると、これはもう自国ファーストに留まらず、自分ファーストである。
欧米先進国の分別が、かなり怪しくなってきている昨今、益々わが国の外交力の真価が問われることになるだろう。
2019年3月25日
[参考]
ガリラヤ湖