工房閑話
食材偽装のビザ的考察
2013年10月に阪急阪神ホテルズに端を発した一連の食材偽装事件には「You too, Brutus !」の心境で、残念ながら偽装していない企業を挙げてもらう方が手っ取り早いところまできてしまいました。「知識不足、誤解を招いた・・・」等々の釈明がなされていますが、消費者の視点からすると、どう見ても詐欺行為に見えると思うのですが。
さて、「もし今回の事件の関係者であるF氏が、アメリカのビザを申請した場合、許可されるのか?」について考えてみたいと思います。問題点を分かり易くするために「F氏が偽装の罪に問われている」と仮定します。
犯罪歴のある申請者への発給の可否の大きな目安に、「Moral Turpitude(直訳すると不道徳行為)を含む犯罪か否か」があります。すなはち、「悪質な犯罪かそうではないかにより発給の可否が分かれる。」と云う我々にも非常に分かり易い考え方です。より詳細な情報が必要な方はこちらから国務省マニュアルをご覧下さい。
F氏が「承知していなかった。調理担当者の知識不足。現場の連携不足・・・・・」と一貫して「意図的ではなく過失である。」と主張し、これが認められるとどのような罪に問われるのか、浅学の筆者には定かではありませんが、仮に有罪判決が出たとしても「Moral Turpitude に該当しない。」とされ、ビザが発給される可能性が高くなります。さらに今回の偽装の中には、味のレベルを超えて、食の安全に関わりそうな産地偽装も含まれており、極端ですが死亡者を出してしまった場合はどうでしょう。この場合も発給の可能性が期待できます。現実的な例では、自動車を運転中に死亡事故を起こし、業務上過失致死に問われた場合、ビザが下りているケースは少なくありません。手続きとしては、犯罪歴がある場合、移民局宛に免責申請を行わなければなりませんが、この手続きを経ないで、大使・領事館への申請のみで発給されているケースすらあります。
一方、詐欺罪に問われた場合は、「過失ではなく意図的である」つまり「Moral Turpitude に該当する。」とみなされ、ビザが発給される可能性は極めて低くなります。どうしてもアメリカに行かなければならない事情がある場合は、移民法専門、それも犯罪歴ケースに精通している弁護士に相談すべきでしょう。
蛇足ながら、「責任者は承知していなかった。知識不足であった。誤解を招いた」と云う説明はアメリカでは受けいれられないかも知れません。彼我の考え方の違いが気になりますが、事は日本ブランドの威信に関わるだけに「当該企業の在アメリカ子会社は大丈夫だろうか?」と考えてしまいます。