工房閑話

 

 

アフガニスタン作戦の終焉

 

 8月15日、アフガニスタンから避難する人々で溢れる米軍輸送機の衝撃的な写真が世界を驚かせた。C17輸送機は軍事機材等最大77トンを積載する能力があり、兵員輸送仕様にすると189人分の座席を供給できるが、この非常事態に際し600人を超える避難民を収容した機内には文字通り立錐の余地もない。
 
 その唐突さもさることながら、カブールの混乱は、1975年のサイゴン陥落を思い出させる。他国をアメリカ流の民主主義国家に仕立て上げる難しさを、高価な代償を支払って学んだはずだったのだが、2001年のテロによる、ニューヨークの貿易センタービルの崩落で火が付いた愛国心の前に、その経験が影を潜めてしまった。あろうことかアフガニスタンはおろか、イラクにまで侵攻したが、そこに「大量破壊兵器」は存在せず、大儀なき作戦だったことは周知のとおりである。

 

 大混乱の撤退はアメリカのアフガン政策の誤りを象徴している。トランプ外交の稚拙さは言い訳にはならないだろう。しかし、最後の最後で米国人及び協力者を国外に脱出させようと懸命に努力している。韓国政府も、いち早くこの事態に対処し、390人を救出したと報じられている。他のヨーロッパ諸国も同様である。

 

 「タリバンは日本人及び関係者には危害を加えない」と云う楽観論もあるが、「給油で米軍を支援した日本は、明らかに敵国にあたる」と考えるべきだろう。日本政府もようやく自衛隊機を派遣したが、対象者の空港までの移動確保の目途が立っていない。その役割を果たすべき大使館員は、いち早く国外に脱出しており、「何をか云わんや」である。このままでは目的を達成しないまま救出作戦を終了する恐れがある。これは沖縄で一般市民を地上戦に巻き込み、戦闘員を上回る死者を出した第32軍、そして満州に日本の一般市民を置き去りにし、あまたの悲劇を招いた関東軍の姿と重なってしまう。

 

 なにも、「国民の生命を守る」という最も重要な国家の役割に疑問符がつくのはコロナだけではない。日本政府には本気の努力を尽くしてもらいたい。


 

                            2021年8月27日

 

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