工房閑話

 

 

死海写本

 

 先日、イスラエル考古学庁が死海写本の新たな断片の発見を発表した。死海写本は、1947年にイスラエルの死海を見下ろすクムラン遺跡の洞窟で初めて発見され、その後一帯で相次いで発見されているが、今回の発見はおよそ60年ぶりの事である。約2千年前に書かれた死海写本には世界最古の聖書(旧約聖書)の写本が含まれている。それまでの最古の写本は、11世紀に書かれた「レニングラード写本」であり、死海写本の発見は聖書研究に大いなる福音をもたらした。考古学上20世紀最大の発見とも云われている。

 

 1947年に発見された死海写本は、死海の北西部クムランの地で、厳格に戒律を守り共同生活を送っていたエッセネ派というユダヤ人グループにより作成され、ローマの侵攻に備えて洞窟の奥深くに隠されたと推測されている。羊飼いの少年が、群れからはぐれた山羊を探している時に偶然発見したそうだが、いかにも聖書にまつわる古文書の発見にふさわしい出来事である。

 

 さて、ローマの統治時代に国が滅び、ユダヤ人は世界中に散逸し、ユダヤ人国家の再建は1948年のイスラエル建国まで待たなければならない。近くはナチスドイツのホロコーストに代表されるが、その受難の歴史はあまりにも壮大で、日本人である私の想像の域を超えている。何故ユダヤ民族がこれほどまでに迫害を受けるに至ったかについては、多くの研究者の興味をひいてきたが、優秀な人材を輩出したことへの他国の嫉妬もあるらしい。地球規模で侮れない影響力を発揮しているユダヤ勢力だが、世界中のユダヤ人の人口が1千万余に過ぎないことを聞いた毛沢東が驚いたという記述を見たことがある。

 

 周囲を敵対するアラブ諸国に囲まれている中で、国を維持していく困難は想像に難くない。ユダヤ人の高い能力を抜きにしては叶わないだろう。その困難に対峙する力は、軍事・外交に留まらず、コロナ対策に於いても目を瞠るものがある。昨年の早い時期、日本のアベノマスクが世界を沸かせた頃、ネタニヤフ首相自身がファイザーのCEOと直接交渉を行いワクチン確保に成功している。イスラエルが世界に先駆けて圧倒的なワクチン接種率を達成しているのは周知のとおりである。


 

                            2021年3月26日

 

工房閑話に戻る