工房閑話

 

 

東京2020

 

 コロナ禍にあって国民の関心が失われた感がある五輪だが、にわかに世間の耳目を集めることとなった。五輪憲章に真っ向から挑戦するような組織委の森前会長の意表を突く女性蔑視発言、そしてそれに続く新会長決定に至る混乱で、五輪は一気に話題の主役に返り咲いた。辞任に追い込まれた会長が後任を選び、涙にくれながら後事を託す兄弟仁義は、聞く者に感動を呼び起こさずにはいられなかった。また、兄弟仁義流が世論の批判を受けたことを踏まえて、仕切り直しになったが、決して世論に挫けることなく密室で新会長が選ばれた。その一連の経緯は日本の民主主義のDNAが健在であることを教えてくれている。

 

 一方IOCは「前会長の発言撤回と謝罪で問題は解決した。」と早期決着を図ったが、批判は世界中に拡散し、相次いでスポンサー企業が苦言を呈するに至り、IOCも態度を一変した。これにより森前会長は不本意な辞任に追い込まれることになった。この模様をCNNは “ Money talks ! ”とコメントしているが、今の五輪の本質を突いている。もはやアスリートファーストどころではない。

 

 「コンパクト五輪」と「復興五輪」をうたって招致した東京2020ではあるが、「世界に恥ずかしくない大会を」と云う前組織委会長の言葉が象徴するように、膨れ上がった経費は当初予算の4倍とも5倍とも言われている。その額の大きさに、さすがのIOCも困惑を隠さなかった。一方「復興五輪」は風化し、「人類がコロナに打ち勝った証として五輪を開催する」に取って代わられている。しかし、唯一対策らしい対策と云えるクラスター追跡も中止され、国民の自粛以外に事実上無策状態が続いており、打ち勝つ道筋は一向に見えていない。しかし、もし五輪が梃となって、本気の感染対策が実施されることになり収束が見えてくれば、国民の支持も得た開催が可能かも知れない。高い緊張感を持って注視していく必要がある。


 

                            2021年2月23日

 

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