工房閑話

 

 

2016年の終わりに

   

 言葉を極限まで削ぎ落とした俳句、川柳にはビザのサポートレターに通じるものがある。ビザ審査に当たる領事は冗漫なレターを嫌悪する。申請者が有資格者であることを簡潔に述べると同時に、余韻を駆ってさりげなく訴えるレターを目指してはいるが、これがなかなかに難しい。
朝日川柳に今年を締めくくるような句を見つけたので、二句紹介する。

 

鴨鍋が最高だったとプーチン氏


 米誌フォーブスは「世界で最も影響力のある人物」に、3年連続でプーチン大統領を選んだが、長門での日露交渉では、その実力の一端が垣間見えた。我が邦が、後ろめたさを抱えながら、西側陣営の結束を裏切ってまで用意した渾身のカードを切っても、ウラジミールは微動だにしなかった。「会談後の記者会見で、我が宰相は領土交渉の第一歩という思いを秘めながら、友好的な言葉を並べたが、それに続くプーチン氏の、経済一辺倒とも言える無機質なスピーチは、今度こそと期待をにじませていた人々に、引導を渡した。」と云うのはうがち過ぎだろうか。
 民主的な国家より強いロシアを求める世論に応えることで、奇跡的な支持率回復をやってのけた彼の在任中、北方領土問題が進展することはまずあり得ない。欧米の経済制裁に苦しみながらもクリミアから撤退することなく、日本以外が関心を示さない北方四島を返還する展開が想像できるだろうか。「日本との外交交渉に毅然とした姿勢で臨み、価値ある成果を勝ち取った。」と、ロシア国民の評価は高い。

 

 一方、トランプ次期大統領は、Person of the Year としてTIMEの表紙を飾った。頼みの選挙人の変節もなく、トランプ大統領が確定したが、政権幹部の顔ぶれを見るに、もう一つ引導をもらった気分になってしまう。
新大統領については「何をしようとしているのかが不明」との声が多く聞かれるが、隠された何かがある訳では無く、選挙運動中の言動こそが、彼の哲学なのだろう。移民政策も大きく変わり、日本人のビザも難しくなるかも知れないが、それ以前に移民、非移民を問わず、世界中の人間を惹きつけるアメリカではなくなってしまう恐れすら感じる。
 とは言え、私が関わったアメリカ人は、隠れトランプ分を差し引いたとしても、圧倒的にリベラルな人間が多かったと思う。実際、実獲得票数ではヒラリーが上回っていたのは、アメリカのもう一つのDNAが廃れていない証左だろう。軌道修正のポテンシャルがあると信じたい。

 
揶揄できる自由まだあり年の暮れ

 

                            2016年12月20日

           

 

工房閑話に戻る